HTLV-1(成人T細胞性白血病)
著者:院長 福地裕三
HTLV-1について
HTLV-1とは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell Leukemia Virus Type 1)の略称です。
有名なHIV(エイズウイルス)と同じレトロウイルス科に属するウイルスです。
1980年頃に報告された、比較的新しいウイルス感染症とされています。
HTLV-1感染者の多くは、一生無症状のまま経過すると言われていますが、一部の方ではウイルスが原因で免疫系や神経系に影響を及ぼし、関連疾患を発症することがあります。
代表的な関連疾患として、成人T細胞白血病(ATL)という血液のがんを発症する場合があります。
正確な統計データは限られていますが、日本国内には100万人以上のキャリアが存在すると推定されています。
HIV感染者数が日本国内で約3万人強とされることからも、HTLV-1のキャリア数の多さが際立っています。
また、関連疾患の発症は、近年やや増加傾向にあると報告されています。
ヒト T 細胞白血病 1 型ウイルス (HTLV-1) の透過型電子顕微鏡画像
情報元:CDC
感染経路について
HTLV-1は、主に感染者との性行為、血液を介した感染、または母乳を介して感染します。
感染力はそれほど強くありませんが、感染者と数年間交際した場合、20〜30%程度の感染率であると報告されています。
かつては献血による感染例もありましたが、現在はスクリーニング検査が導入されており、心配はありません。
また、母乳による感染は、人工乳に切り替えることで母子感染を防ぐことが可能です。
初期症状について
HTLV-1に感染しても、自覚症状に乏しく、ほとんどの方は無症状のまま経過します。
潜伏期間は非常に長く、数十年に及ぶこともあります。
まれに初期症状として、がみられる場合があります。発疹やリンパ節の腫れがみられる場合があります。
関連疾患について
成人T細胞白血病(ATL)
ATLは、HTLV-1感染が原因で発症する血液のがんの一種です。
T細胞というリンパ球が異常に増殖し、全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。
そのため、臨床症状は多岐にわたり、進行が早い場合には急速に病状が悪化します。
主な症状としては、発熱、全身倦怠感、食欲不振、リンパ節の腫れなどがみられます。
HTLV-1感染者のうち数%が発症するとされ、年間1,000人以上が亡くなっています。
その他の関連疾患
HTLV-1関連脊髄症(HAM)やHTLV-1関連ぶどう膜炎(HU)などの疾患があります。
ただし、いずれもHTLV-1感染者における発症率は1%未満とされています。
検査について
HTLV-1の検査は採血によって行われ、CLIA法やPCR法があります。
HTLV-1抗体検査(CLIA法)
CLIA法による抗体検査は、主にスクリーニング目的で用いられます。
感染の可能性があった時点から2か月以上経過していれば検査が可能です。
ただし、感染の有無をより確実に判定するためには、3か月以上経過してからの検査を推奨しています。
検査結果は、採血後1〜2日ほどで判明し、WEB上でご確認いただけます。
HTLV-1 NAT(PCR法)
HTLV-1の核酸を検出する検査であり、非常に精度の高い検査方法です。
感染の可能性があった時点から1か月以上経過していれば、検査が可能です。
スクリーニング検査で陽性となった場合は、PCR法によって確定診断を行うことができます。
検査結果が判明するまでには1〜3週間ほどかかります。
※ PCR法による検査は、平日のみ実施となります。
| 項目 | 料金 | 採取部 |
|---|---|---|
| HTLV-1 抗体 | 5,500円 | 血液 |
| HTLV-1 NAT | 11,000円 | 血液 |

治療について
HTLV-1を根治させる薬はなく、現在のところ有効な治療法もありません。
そのため、感染後に特別な治療を行うことや、関連疾患の発症を完全に予防することはできません。
ただし、前述の関連疾患を発症した場合には、それぞれの疾患に応じた治療が行われます。
予防について
HTLV-1に感染している方との性行為を避けることが最も重要です。
また、コンドームを使用することで感染率を大幅に低下させることが可能です。
ワクチンは存在しないため、基本的な性感染症予防を徹底することが大切です。


